先月、イギリスの女王エリザベス2世が崩御されました。なんとイギリス王室には相続税がかからないそうで、日本との違いに驚きました。
実は、かつて昭和天皇が崩御された時、明仁上皇は相続税を約4億3000万円納められています。
このあたりの違いは、イギリスと日本との歴史的な背景の違いに由来するものですので、どちらが正解というわけではないと思います。
一応、両国とも国民に選挙で選ばれた議員が作った法律の通りに税金がかかっているだけなので、現代の国家としては正しい姿です。
後半で昭和天皇の相続税について解説しますが、いい機会なのでイギリス王室と日本の皇族にかかる税金を比較してみましょう。
1.イギリス
イギリス王室にかかる税金は全面的に免除されています。
「王室の経済的自立性を保つため」という理由だそうです。明確な法律があるわけではなく、王室と政府の合意書によるそうです。
①相続税
上記の通り、国王が崩御した場合に次の国王への相続税は免除となります。相続の度に資産が目減りしていくのを避けるという理由もありそうです。調査不足で申し訳ないのですが、国王以外の王族まで免除されるかどうかはよくわかりませんでした。年にフィリップ王配が亡くなっているのですが、相続税がかかっているという記事は見つからなかったので免除になっている可能性が高いです。
②所得税
もちろん所得税も免除ですが、エリザベス女王は自主的に納税されていたそうです。
③資産管理会社?
イギリスには「クラウン・エステート」という王室の資産管理会社があります。主に不動産を所有し、鉱物の採掘権や漁業権なども有しています。収益はほとんど国に入り、一部が王室の生活費として支給されることになっています。
2.日本
日本国民には納税の義務があります。ただ、皇族が国民に含まれるかどうかは憲法学者でも解釈が分かれるところだそうです。
①相続税(贈与税)
天皇だけでなく、他の皇族にも相続税の納税義務があります。ただし、三種の神器など天皇が役職とともに相続するものについては非課税とされています。皆様のご記憶にも新しい生前退位の際には、例外的に贈与税も非課税とされました。
「相続の度に資産が目減りする」というのは日本の皇室特有の問題で、もともと皇族の物だった美術品や各地の御用邸が、相続税の物納財産として少しずつ国の財産になっています。とはいえ、皇族が相続税を払うようになったのは最近(戦後)のことですし時代も変わっていくので、見直しがされていくかもしれません。
②所得税
一般国民の給与に当たる(かもしれない)宮廷費と皇族費については所得税がかかりません。ただし、印税や配当金などには税金がかかるようです。いずれも源泉所得税で完結させて確定申告はしていないのかもしれません。個人的に気になるのは、確定申告しているのであれば、申告書の姓やマイナンバーの欄にどう記載しているのかということです。
③使い放題?
イギリスのような資産管理会社は日本にはありません。その代わり、皇居や各地の御用邸などの国有不動産や御料車を無償で利用することができます。「借地権の認定課税や経済的利益のみなし給与で税金取られるのでは?」と素人なりに考えてしまうのですが、そういうことはないようです。日本の中小企業も社宅や社用車で節税するので同じようなものかもしれません。
イギリスと日本は共に島国で立憲君主制という点では同じです。しかし、国民性や歴史は随分違いますし、税金もいろいろと違いがあるようです。
昭和天皇の相続税
昭和64年1月7日に昭和天皇が崩御されました。この日は私の5歳の誕生日で、国民全体がお通夜モードの中、客が誰もいないレストランで家族と食事したのを今でも覚えています。
元号変わって平成元年7月7日までには相続税の申告と納付が行われました。
現在では10ヶ月ある申告期限は当時だと6ヶ月しかありませんでした。提出先は麹町税務署でした。
皇居を住所とすれば最寄りの税務署でもありますし、納税地が不明の場合も麹町税務署が指定されます。
ちなみにこの申告書は今でも麹町税務署の金庫に厳重に保管されているそうです。
遺産を相続したのは香淳皇后と明仁上皇のお二人でした。
法定相続人は他にもいらっしゃいますが遺産は取得されていないようです。
遺言を書かれていたのか放棄されたか分割協議で取得されなかったのかは不明です。
遺産総額は約19億円で、財産の種類としては現預金と有価証券、美術品などだったそうです。
現預金と有価証券については、戦後GHQにより皇室の現預金が1500万円だけに切り捨てられたものが運用された結果と言われています。
高度経済成長期を経てるとはいえ、10000%超の運用益が出ているのは驚きです。
バブル真っただ中ですので有価証券が高かったのかもしれません。香淳皇后は配偶者の税額軽減により納税額は発生せず、明仁上皇だけが約4億円の相続税を納められました。19億円-1.3億円(当時の基礎控除)=17.7億円(課税財産)、17.7億円÷2人=8.8億円(1人あたりの課税財産)、8.8億円×50%(税率)=4.4億円(納税額)と考えると大体同じ数字になります。
まさか債務はないでしょうし、葬式費用は自己負担されていないでしょう。
なお、美術品など一部の財産は国に寄付されてりおります。現在であれば、措置法70条の規定により国や公益財団法人に寄付した相続税は非課税となります。
配偶者が50%を取得するのは二次相続対策としてかなり悪手ではあります。
香淳皇后はその後平成12年に崩御されていますが、その時の相続税は公表されていません。
バブル真っただ中からすれば株価はかなり下がっていた時とはいえ、約9億円あった資産が相続税もかからないほど減っていたとは考えにくいです。もし私が昭和天皇の相続税を申告した税理士であれば、配偶者は25%程度でアドバイスしていたと思います。もちろん、この辺りは納税者のご意向もあるので最小の納税が絶対の正解、という訳ではないのですが…
担当した税理士は公表されていません。おそらく民間の税理士ではなく、国税局OBで資産税上がりの高齢の税理士が申告書を作成したものと思われます。
申告後の税務調査はされていないと確信を持って言えます。
※敬称等については執筆時点のものです。
また、グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国は紙面の都合上イギリスと呼称しております。